プロローグ(3):「シンプルに考える」は「シンプルな結果」を生む過程である

09.「シンプル」と「Simple」~ 日本人の美意識にも通じる言葉だが

 

「シンプル」の本来の意味は構成要素が少ないことを指し、日本語でこれに当たる言葉は「単純」となります。/「単純」の意味を考えると、「単一」と「純粋」に分けて考えることができます。(プロローグ(1)より)

 

「simple」の意味は大きく分けて5つあります。

1)単一の、純粋な、複雑でない
2)純粋な、素直な、気取らない
3)簡素な、質素な、飾り気がない
4)簡潔な、簡単な、難しくない
5)ただの、ふつうの、つまらない

注目すべきは、「2)純粋な、素直な、気取らない」と「3)簡素な、質素な、飾り気がない」です。これら分類に含まれる他の言葉には「素朴、質素、地味」があります。

私たち日本人の美意識の中には「侘(わび)」と「寂(さび)」があります。「侘」とは「つつましい、簡素、優美」を、「寂」は「時間の経過、劣化」を意味し、前述の「シンプル」の意味と重なります。

この「わびさび」の美意識は、室町時代から始まり、現代でも日本人の心の奥底にある。日本特有の美意識がわかる心情は、洗練された物ごとに触れたときに湧き上がる感性と同じでしょう。

そのためか、日本人は「シンプル」という言葉を使うときには、どこかに美意識や洗練さを表しているように思います。ところが、英語の「simple」には「洗練されていない」という全く逆の意味があります。

「シンプル(simple)」には、良い意味で用いる場合も悪い意味で用いる場合もあります。上記の「5)ただの、ふつうの、つまらない」の分類に「洗練されていない、ありふれた」という意味が加わるのです。

日本人と外国人の「シンプル(simple)」に対する意識が違うことを考慮する必要があります。なかには、日本人以上に日本人らしい日本的な美意識を感じる人もいるかもしれませんが、「シンプル」の一語だけでは意図が伝わらない場合もあります。

 

10.シンプルに考えると人間性が表れる ~ 性格や考え方を変える?

 

「シンプル(simple)」という言葉は、日本語でも英語でも、要素が少ないときに使われます。要素が少なくなると、どのような感性や刺激するかは前述の美意識のとおり人によって違いがあります。

物ごとの要素を少なくすると、外側に向かっていた感性は内側にも向かうようになります。内側に向かう感性とは自分自身に向かって自己評価を促し、人間性を問われているような気にさえなってきます。

自分の人間性を現すには、外面的な方法と内面的な方法があります。外面的な方法とは直接的な表現で五感に訴え、内面的な方法とは性格や考え方によって間接的に示されます。

性格や考え方には、思いやり、気づかい、愛情などが含まれます。これらを総じて「人間性」という言葉に落ち着きます。性格を変えるのは難しくても、それに比べると考え方を変えるのは難しくありません。

例えば、人間性を示す外面的な方法は、日常の行動や言動で見受けられます。その一方で内面的な方法は、他者への思いやりや、自己評価を通じて表されます。この内面的な表現こそが、真の人間性と受け入れられることが多いのではないでしょうか。

「人間性の中の考え方を変える」ということについて、そもそも変える必要はあるのかと問われることがよくあります。「考え方」は人間性や生き方のの一部であり、考え方を変えれば人間性や生き方にも影響を与える出しょう。

考え方を変えるかどうかは自分で決めなければなりません。その考え方の1つが「シンプルに考える」ことです。「シンプルに考える」とは、安易に簡単に軽く考えることではありません。むしろその逆です。考え方を単純化することが深い内省につながるのです。

 

11.「シンプルに考える」ために必要なこと ~ 4つの力と3つの手順

 

「シンプルに考える」ためには、必要な力と考える手順があります。

【必要な力】
 価値選択力:価値基準を設けたり、優先順位をつける力
 短期集中力:すぐ行動に移せるスピード感を持つ力
 情報吸収力:情報を収集し、理解し、選別する力
 エネルギー:有形無形のエネルギーを取り入れる力

【考える手順】
 細かく分解する:ロジックツリーで最小単位に分割し、モレとダブリを把握する
 組み立て直す :マトリックスで分類し、傾向を分析する
 時系列で計画する:課題を明確にし、フローチャートで計画を立てる

 

「シンプルに考える」ことは、簡単に、安易に、手短に考えることではありません。ゼロから考え始める際には、最初からシンプルに考えるのではなく、スピード感を持ってたたき台を考えることから始めるほうがよいでしょう。

「シンプルに考える」ためには、能力を育み、手順を覚え、やり遂げる情熱が必要です。このように入念に行っても、シンプルな考え方だけでシンプルな結果が得られるとは限りません。

「シンプルに考える」ことは単純思考とは異なり、あらゆる可能性を想定して「シンプルな結果を生む」ことが本質です。そして、シンプルに考え、シンプルな結果を生む過程で、深い洞察をもたらすことに価値があります。

 

12.感性で思い、理性で考える ~ シンプルな結果を生むために

 

人間には誰にでも感性があります。感性とは感覚、感情を表現する能力です。能力という力は、有無、強弱、高低、大小などで表されます。感性があるだけでは、内面的な「思い、思う」だけになります。

「思い」伝えるためには「考え」が必要であり、考えるためには理性が必要です。理性とは論理と理論で表現する能力です。感性で思い、理性で考え、再び感性で行動するのが一般的です。

ところが感性も理性も人によって程度の違いがあります。同じような程度の人同士でコミュニケーションをとるのが最も心地よい状態です。この感性の程度を感性レベルと言う場合もあります。

感性レベルをより高めたい人は、理性と並行する知性に働きかけます。理性に刺激された知性は、自らの知性を高める行動に出ます。この時の行動が、学習やコミュニケーションとなります。

「シンプルに考える」ためには、感性だけではなく理性を働かせなければなりません。感性的な人は有無で判断し、理性的な人は感性をレベルで判断し、感性と理性のバランスを取るようにします。

感性と理性のバランスを取りながらシンプルに考え、シンプルな結果を導き出しているにもかかわらず、シンプルさが伝わらない場合があります。このような場合は「シンプル」の対義語である「複雑さ」が残っているのかもしれません。

「複雑さ」には2通りあります。必要なものと不要なものが入り組んでいる場合と、必要なものだけにもかかわらず入り組んでいる場合です。

両方とも要素の多さに起因しているのですが、前者は整理することでシンプルになり、後者は整頓を行えばシンプルになります。これもまた「シンプルに考える」の1つの方法です。

 

 

「シンプルな結果」で表現すると感性に響くインパクトがあります。その裏側にあるロジックを学ぶと理性に訴えられ、より理解を深めることができます。(下欄参照)