「令和6年版高齢社会白書が公表されました
「令和6年版高齢社会白書」が6月21日に公表されました。毎年7月には高齢社会白書の記事を書くことにしています。今年は例年と比べて表記の仕方が変わっているところもあります。
視覚的にわかりやすくするために棒グラフと帯グラフが多様されていますので、グラフの見方について簡単に注意すべき事項からお話しします。
「高齢社会白書」がWeb上に公開されるようになって久しくなりますが、当初は文字だけ、その後も高齢者の情報だけで、社会全体としての表記が現在のようになったのは平成24年版(2012年)からです。
未だに元号と西暦を併記されていますが、元号だけ、または西暦だけの表記もありますので、時系列で考えるときには注意が必要です。
Web上に公開されるのは、まずPDF版が先行し、後にHTML版が掲載されます。PDF版は小さな画面では読みずらいので、HTML版を待つか、書籍版が店頭に並ぶのを待つしかありません。
パソコンやタブレットの大きな画面で読むことをおすすめします。
グラフの見方に注意!
棒グラフは4種類
棒グラフは数量を表すのに適しています。単純な棒グラフは比較に最も適していますし、要素が複数ある場合は積み上げグラフがわかりやすい場合もあります。
数量にかかわらず全体を100%として表す帯グラフもありますが、比率を比較する場合に適しています。使い方を間違えると違う印象を与えますので、棒グラフの読みとりには注意が必要です。
線グラフの注意点
棒グラフが数量を表すのに対して、線グラフは変化を表すときに使います。時系列で比較するときには特に有効です。また、数量が減少していても、割合が上昇している場合などは棒グラフと線グラフを合わせた複合グラフがあります。
線グラフの注意事項は大きく2つあります。始点の数値がゼロかそれとも定数なのかで変化の割合が異なって見えることがあります。また時系列の時には同じ間隔の時系列になっているかも注意が必要です。
グラフの説明書き
グラフの説明書きには要点が書かれている他に、作成条件が書かれていることも多く、注意深く読む必要があります。アンケートや過去のデータを用いている時には条件が異なることもあります。
このような違いでグラフの印象が変わる場合は、記事解説の都度にお話しします。
概要版だけでも読んでほしい
「令和6年版高齢社会白書」の全体版は172ページありますが、概要版は3ページですので、概要版だけでも読んでいただきたいと思います。
高齢者だけではなく、国民全体、特に未来を支える現役世代や若年層の皆さんにも読んでいただきたいです。もしくは、小中学生には白書をもとにして資料を作ってはいかがでしょうか。
高齢社会は一時的な問題ではなく、日常の現実として受け入れなければなりません。全国という全体ではなく、各自治体別の資料を白書と同じように作成し、広報すべきだと思います。
1.高齢化の推移と将来推計
令和6年版は令和5年版以前とは高齢者の年齢区分が異なります。今までは高齢者は65~74歳と75歳以上の2つの区分したが、令和6年版は65~74歳、75~84歳、85~94歳、94歳以上の4つの区分になっています。
ボリュームゾーンの団塊の世代が75歳以上になり、65歳以上の高齢者でも年齢区分によって違いがわかります。75歳以上を強調することによって、後期高齢者の医療負担が増えることがうかがえます。
また、常々感じているのは、年齢区分の積み上げ型が通常のグラフとは違い、高齢者が下部になり若年層が上部になっていることです。高齢者が増加しているということを強調したいのでしょうか。
2.平均寿命の推移と将来推計
令和6年版から平均寿命の将来推計が掲載されるようになりました。平均寿命はこれからも延び続け、高齢化がますます進むという意図を感じます。
令和5年版までは平均寿命と健康寿命というグラフが掲載されていました。寿命とはあくまでも予測値ですので、元になるデータが変われば予測値も変わります。
寿命には考え方によって、健康寿命、平均寿命、寿命中位数、死亡年齢最頻値と4つの寿命があります。詳しくは次回以降の記事で説明しますが、ここではそれぞれの寿命による違いだけ掲載します。
男 性 | 女 性 | |
健康寿命 | 72.68歳 | 75.38歳 |
平均寿命 | 81.56歳 | 87.71歳 |
(65歳平均余命) | 84.97歳 | 89.88歳 |
寿命中位数 | 84.51歳 | 90.55歳 |
死亡年齢最頻値 | 88 歳 | 93 歳 |
3.年齢階級別就業者別の推移
令和6年版から60~64歳という年齢区分が掲載されなくなりました。これは65歳からの年金支給が段階的に行っていた経過措置が終わりに近づき、65歳定年または雇用延長が定着したからでしょう。
もう一つ注目すべき点は、10年前と比べて75歳以上の就業率が令和5年では2.6ポイントだったのが、令和6年では3.2ポイントに延びていることです。
単に元気な高齢者が増えた、就業を望む高齢者が増えたという理由の他に、人手不足と後継者不足などが考えられます。
4.65歳以上の一人暮らしの者の動向
令和6年版では概要版にこの項目を掲載しています。この意図がなんであるのかはわかりませんが、一人暮らし推計値が大幅に伸びています。
令和5年版では2040年の男女合計が896万3千人だったのが、令和6年版では1041万3千人となり、特に男性の一人暮らしが増加率が顕著になっています。
この理由は男性は人づきあいが苦手という考え方もありますが、他にも仕事社会の上下関係を日常社会ににも持ち込むため、あえて一人暮らしを選択しているのではないかとも考えられます。
特集記事
第3節は特集記事で毎年変わり、令和6年版は「高齢者の住宅と生活環境をめぐる動向について」となっています。近年の相続と空き家問題に対応しての記事だと思われます。
特集記事の元データはアンケート調査であることが多く、必ずしも全国的な傾向を表すものではありません。特に空き家については、都市部と過疎部では状況が異なります。
アンケート調査の結果を踏まえるために、調査数(母数)、複数回答か単一回答かについても注意が必要です。特に複数回答の場合は参考程度にするのがよいと思います。
これから「令和6年版高齢社会白書」を読む皆さんへ
「高齢社会白書」を見る際には、行政機関からの報告書であるとともに、単に数値やグラフを読むだけでなく、どのような意図があるのかを読み解く必要があります。
必ずしも客観的な解説文ではなく、行政による施策の方向性が感じられる場合もあります。全体版ではより詳しく解説されていますが、令和5年版と同じ記事の掲載もあります。
できれば、令和5年版と比較しながら読み解き、何が変わり、何が変わらないかで、現在の状況だけでなく、これからの高齢社会の姿も予想できるようになります。
次回は全体版の「第1章 高齢化の状況」の第1節 高齢化の状況(詳細)についてお話しします。