令和6年版高齢社会白書(全体版)を読む前に
前回の記事でもお話ししましたが、近年の高齢社会白書はグラフが多用されており、視覚的にわかりやすくなっている一方で、誤解を生みかねない場合もあります。
例えば、冒頭のグラフは、元データが「令和5年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した『日本の将来推計人口』における出生中位・死亡中位仮定による推計結果」より作成されています。
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は、資料として紹介されることが多い「人口ピラミッド」を作成しており、高齢社会白書を読み解くうえでも、人口動態の変化をまず理解しなければなりません。
人口ピラミッドの推移からもわかるとおり、日本の人口構造はピラミッド型ではなく、2つのボリュームゾーンからなる「壺型」の期間が長いことがわかります。
この人口動態の変化を理解したうえで、「第1章 高齢化の状況ー第1節 高齢化の状況ー1 高齢化の現状と将来像」を見ていきたいと思います。
「高齢化の状況と将来推計」の変化
高齢社会白書を代表する図(1-1-2)が掲載されているのは概要版と変わりません。概要版でお話ししたことと重複する部分もありますが、もう一度お話しします。
グラフの見方
- 積み上げグラフと線グラフの複合グラフになっていて情報が多く、着目点によって感じ方が異なる
- 通常は下部から若年層、上部が高齢者層になるが、逆になっている
- 過去の期間に比べて未来の期間が少ない
- 折れ線グラフの目盛りが共通になっているため、数値の重要さが伝わらない
- 昭和・平成・令和と元号で表記され、西暦のような一貫性が感じられない
グラフの着目点
- 個々の数値については文中で解説している
- 令和6年版から65歳以上の人口を細分化し、75歳以上の人口に着目している
- 「高齢者を65歳以上とするのが必ずしも適さない」と解説にも書かれている
- 令和5年版と比較して、現状部分を除き数値に変化はない
- 令和5年版では年少人口と生産年齢人口について触れられていたが、令和6年版では触れられていない
グラフを読み解く
- このグラフでわかるのは、総人口の推移(棒グラフ)と高齢者人口の推移(線グラフ)の2つになる
- 5年単位の推移になっているので、1970年から2070年の範囲で考察する
- 日本の人口のピークは2008年の1億2,808万人なので、常に人口減少率を考慮しなければならない
- 65歳以上の人口を生産年齢人口と比較するよりも、年少人口を加えた従属人口指数が重要である
- 団塊ジュニアが65歳以上になる2040年問題については触れられていない
「出生数および死亡数の将来推計」に注意
図(1-1-3)の「出生数および死亡数の将来推計」の数値が変化しています。令和5年版の死亡率推計では2025年が12.4、2070年が17.5に対して、令和6年版ではそれぞれ12.6、19.0になっています。
出生率推計は令和5年版が2025年が6.3、2070年が5.7に対して、令和6年版ではそれぞれ6.2、5.8になっており、大きな変化はありません。
総人口が減少する中で死亡率の値自体が増加するのは、新型コロナ禍の影響なのか、それとも人口のボリュームゾーンの影響なのかもしれません。
このグラフでは、過去の実績が2006年と2010年だけなので、グラフとしては片手落ちになっています。団塊の世代が75歳以上を迎えたことで、なんらかの意図があるのでしょうか。
今後の章で明らかになるのかもしれません。
「平均寿命の推移と将来推計」に変化はなし
前述の通り、図(1-1-4)では、令和5年版と令和6年版で変化はありません。「人生100年時代」が一般的に受け入れらるようになった今では、グラフと数字の掲載で説明の必要がないのもわかります。
前回の記事で、平均寿命と同じように寿命を表す4つの寿命を数値だけ掲載しましたので、今回はひとつひとつについて説明します。
男 性 | 女 性 | |
健康寿命 | 72.68歳 | 75.38歳 |
平均寿命 | 81.56歳 | 87.71歳 |
(65歳平均余命) | 84.97歳 | 89.88歳 |
寿命中位数 | 84.51歳 | 90.55歳 |
死亡年齢最頻値 | 88 歳 | 93 歳 |
健康寿命
厚生労働省が5年ごとに調査しています。調査方法は「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」「あなたの現在の健康状態はいかがですか」という2つの質問の回答を、サリバン法に基づいて算出します。
この調査では、個人の主観が入ること、生活環境や経済状態によっても差が生じます。つまりQOLを向上させるための目的だと考えられます。
平均寿命
最もよく知られているのが「平均寿命」です。平均寿命とは0歳児が何歳まで生きられるかという平均余命です。したがって、年齢ごとに平均余命があるので、生まれた年ごとに平均寿命があると言えます。
高齢者になる65歳の平均余命は、いわゆる平均寿命より長くなります。平均寿命に近い年齢の80歳男性の平均余命は89歳、85歳女性の平均余命は93歳になります。
寿命中位数
平均寿命が各年齢ごとにあるので、人口の中位(真ん中)に位置する人の年齢の平均余命が「寿命中位数」になります。平均寿命より長く、65歳平均余命とほぼ同じになります。
最も肌感覚に近い寿命表示だともいわれます。ただし、地域によって大きな違いがありますので、必ずしも実感とは違うかもしれません。
死亡年齢最頻値
死亡者数が最も多かった年齢が「死亡年齢最頻値」となります。年齢の平均ではなく、死亡者数によって決まりますので、人口のボリュームゾーンに偏る可能性もあります。
他の寿命指標でも同様の影響があるしますが、最頻値は特に影響を受けやすいことを考慮しておくべきでしょう。
令和6年版高齢社会白書を意味続けるために留意すべき点
このように最初に現状を指摘する場合は、次に問題点を提起し、解決策を考えていくというのが通常の展開です。ただし、白書では現状の指摘が主になり、具体的な問題点と解決策は提示されません。
全国的に共通する社会保障費や法律の制定など方向性を提示できても、実際の状況は地方自治体によって異なるからです。地方での高齢社会は全国平均以上に進んでいるからです。
今後の章を読み解くうえで、留意すべき点が3つあります。
1)年齢別の人口ボリュームゾーンによって偏りがでる
2)高齢社会の問題は65歳以上だけではなく、すべての年代に関係する
3)経済的アプローチは最重要課題であるが、医療、介護、福祉などのQOLアプローチを忘れてはならない
次回の記事では、「高齢化の国際的動向」、「家族と世帯」、「地域別高齢化」の3つの項目についてお話しします。