令和6年版高齢社会白書を読み解く~国際比較、地域比較、高齢化の要因と影響

高齢社会白書は、政府が国会に提出している年次報告書です。高齢化の状況や政府が講じた高齢社会対策の実施状況などについてまとめられています。

今回は、令和6年版高齢社会白書の第1章第1節「高齢化の状況」から、以下の項目について見ていきます。

2 高齢化の国際的動向
3 家族と世帯
4 地域別に見た高齢化

記事を読み解くにあたり、人口ピラミッドのボリュームゾーンと、グラフが表示する数量と変化率の違いの両面に注目します。

 

 

 

高齢化の国際的動向~世界と比べて見えてくる日本の高齢化の特徴とは?

 

世界の人口は2060年までに100億人に達すると予測され、人口の増加に伴って高齢化率も上昇すると見込まれています。

2020年時点で、65歳以上の高齢者は世界人口の9.6%を占めており、高齢化社会の基準である7%を超えています。

今後、世界でも高齢化のスピードは加速し、2060年には65歳以上人口の割合が18.7%に達すると推計されています。

すでに世界は高齢社会に向かっているのです。

 

世界の高齢化の潮流と日本の立ち位置

ただし、高齢化の進展度合いは国によって大きく異なります。今後、日本では75歳以上の高齢化に着目する必要がありますが、各国の実情に合わせた高齢化対策を講じる必要があります。

例えば、人口大国と人口小国、人口増加国と人口減少国を比較することにあまり意味はありません。なぜなら、経済的、地理的、政治的、文化的などの環境が違いすぎるからです。

日本の高齢化対策は、先進的な取り組みとして国際的に注目を集めていますが、その実態は多くの課題を抱えています。

高齢化先進国として、現状の問題点を直視し、持続可能で包摂的な超高齢社会の実現に向けた道筋を示していくことが、今、強く求められています。

 

家族と世帯~家族と世帯の変化に潜む高齢化社会の落とし穴

 

日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少傾向にありますが、世帯数は増加し続けています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2030年に5773万世帯でピークを迎えるとされています。

なぜ人口が減少しているのに世帯数が増えているのでしょうか。要因の1つには、高齢者の家族構成の変化にあります。かつての三世代家族から核家族を経て、夫婦のみの世帯や単独世帯が増加しています。

もう一つの要因は、ライフスタイルの変化です。若者の晩婚化・非婚化が進み、一人暮らしを選択する人が増えています。共同生活をしなくても単独生活が可能な環境が整ってきたことも要因の一つです。

ここで、高齢社会白書のデータを見てみましょう。図(1-1-8)は、65歳以上の者のいる世帯数の推移を示しています。

このグラフは2010年までは5年間隔、2012年以降は1年間隔でデータが取られているため、1980年から急激に変化したように見えます。しかし、実際には徐々に変化が進んできたと考えられます。

また、2015年の65歳以上単独世帯数について、図(1-1-8)では624万世帯、図(1-1-9)では592万世帯と、数値に乖離があります。

このデータの不一致は、統計の取り方の違いなどが原因と考えられますが、高齢社会の実態を正確に把握するためには、精度の高いデータ収集が不可欠です。

 

データによる地域づくりの必要性

私がデータの整合性を指摘するのは、単に正確性を求めているからではありません。高齢社会の課題解決には、社会参加や介護予防など個人の努力も大切ですが、それだけでは不十分です。

行政には、信頼できるデータに基づいて、効果的な政策を立案・実行することが求められるのです。

家族や世帯のあり方は、時代とともに変化しています。その変化の実態を適切に捉え、対策を講じていくことが、今後ますます重要になるでしょう。

 

地域別に見た高齢化~浮き彫りになる高齢化の深刻な地域間格差

 

高齢化の状況は、都道府県によって大きな差異があります。令和3年の高齢化率は、最も高い秋田県で38.1%、最も低い東京都で22.9%と、その差は15ポイント以上にもなります。表(1-1-10)

同じ都道府県内でも、人口集中部と過疎部では高齢化の状況が大きく異なります。例えば、北海道と福岡県は人口規模がほぼ同じ510万人ですが、高齢化率は北海道が33%、福岡県が28.5%と差があります。

また、人口密度(平方km)も北海道が64人、福岡県が1024人と大きな開きがあります。高齢社会対策を考えるうえでは、都道府県レベルだけでなく、市町村レベルでのきめ細かな対応が求められます。

 

地域の実情と日本の将来のバランスこそ重要

市町村レベルで重要なのが人口減少への対応です。人口減少を少子高齢化の結果と捉えるのではなく、少子化、高齢化、人口減少を個別の問題として捉え、それらの相関性も考慮しながら対策を立てる必要があります。

市町村レベルの高齢化に関して言えば、高齢者の移動(転居)も無視できない要因です。医療や介護、社会福祉サービスを受けるために、地方から都市部へ転居する高齢者が増え、社会保障の空洞化が見られます。

地域の実情に即した高齢社会対策を講じるためには、地域の特性を踏まえた総合的な取り組みを進めることが不可欠です。

地域別の数値分析では地域の実情を十分に把握できません。また高齢者のみを対象とした対策だけでは、日本の将来像を見誤るおそれがあります。世代を超えた対策が必要になっています。

 

高齢社会白書の限界と多層化した社会の取り組み

 

今回の記事で、高齢社会白書は全国を対象とした報告書であり、身近な地域レベルの実情とは必ずしも一致しないことがご理解いただけたかと思います。

国、都道府県、市町村、そして最も身近な家族に至るまで、それぞれのレベルでの対応が必要です。

そのためにも、高齢社会白書を読み解くことで国レベルの方向性を理解し、それを身近なレベルの取り組みに活かしていくことが大切です。

次の記事では「高齢化の要因」「高齢化の社会保障給付費に対する影響」についてお話しします。