令和6年版高齢社会白書を読み解く~高齢化の要因を深掘り、社会保障への重要な影響

「令和6年版高齢社会白書を読み解く」と題して4回目を迎えました。今回は「第一章第一節 高齢化の状況」の高齢化の要因と高齢化の社会保障給付費に対する影響についてお話しします。

第1章 高齢化の状況 第1節 高齢化の状況
1 高齢化の現状と将来像
2 高齢化の国際的動向
3 家族と世帯
4 地域別に見た高齢化
5 高齢化の要因
6 高齢化の社会保障給付費に対する影響

 

 

「高齢化の要因」は少子高齢化だけではない

 

現在の総人口は、「直前の総人口+出生数-死亡数」で計算できます。出生数と死亡数が同じであれば総人口は維持されます。

高齢社会白書では毎年のように高齢化の要因を「①年齢調整死亡率の低下による65歳以上人口の増加、②少子化の進行による若年人口の減少」と記しています。

年齢調整死亡率とは、人口構成の変化による影響を取り除くために、基準となる人口構成を用いて調整した死亡率のことです。実際に死亡数が増えていても年齢調整死亡率は低下しています。

社会の高齢化の基準は、65歳以上の人口が、総人口の7%超が高齢化社会、14%超が高齢社会、21%超が超高齢社会となります。したがって、高齢者人口が減らなければ自ずと高齢化は進みます。

少子化が影響するのは人口減少です。高齢化は総人口に対する割合なので、少子化による総人口の減少が高齢化に拍車をかけているのが現状です。

 

グラフの見方について

図(1-1-12)の「死亡数及び年齢調整死亡率の推移」では平成17年(2005年)までは5年間隔、その後は1年間隔になっています。5年間隔でグラフを見ると、死亡数の増加と年齢調整死亡率が一定になっていることがより明確になります。

また総人口のピークは平成20年(2008年)で、その後人口減少が続いていることを考慮すると、さらに死亡数の増加が人口減少の一因になっていると考えられます。

令和5年には掲載されいなかった図(1-1-13)の「出生数及び合計特殊出生率の推移」は人口減少の要因を探るための資料だと考えられます。

平成2年以降はほぼ一定の数値に落ち着いていると考えられます。ただし、出生数は減少傾向にあることから、合計特殊出生率だけではなく、婚姻数、地域別出産適齢期人口などを合わせて考える必要がありそうです。

これらのグラフから、高齢化の進展と人口減少の関係性を読み取ることができます。死亡数の増加と出生数の減少が、高齢化と人口減少を同時に引き起こしていると言えるでしょう。

平成2年(1990年)以降はほぼ一定の数値に落ち着いていると考えられます。ただし、出生数は減少傾向にあることから、合計特殊出生率だけではなく、婚姻数、地域別出産適齢期人口などを合わせて考える必要がありそうです。

 

少子高齢化を多面的に捉える必要性

人口構造を14歳と65歳を基準とした人口ゾーンのバランスで考えるのは、日本のような高齢社会では適していません。人口のボリュームゾーンの位置で3つのバンランスが大きく変わるからです。

令和3年、4年、5年の人口バランスを、15歳、65歳、75歳を基準にした割合で表すと次のようになります。

令和3年令和4年令和5年
0‐14歳11.8%11.6%11.4%
15‐64歳59.4%59.4%59.5%
65歳以上28.9%29.0%29.1%
(65‐74)(14.0%)(13.5%)(13.0%)
75歳以上14.9%15.5%16.1%

 

団塊の世代が3年間で75歳以上になることで、同じ65歳の高齢者でも年齢によって大きな違いが生じています。人口ゾーンをより細分化して考える必要があります。

例えば、団塊の世代が属する人口ゾーンによって、高齢社会の重心が変わります。65歳以上を高齢化率と考えるのではなく、人口構造を表すには75歳以上を高齢化率としたほうが適しているように感じます。

 

高齢者の多様性に応じたきめ細やかな対策の必要性

高齢化の問題を考える上で、「65歳以上」という区分だけでは不十分かもしれません。なぜなら、65歳から74歳まで高齢者と、75歳以上の期高齢者では、健康状態や生活様式に大きな違いがあるからです。

例えば、65歳から74歳までの人の多くは、比較的健康で、仕事やボランティアなど、社会参加に意欲的な傾向があります。一方、75歳を超えると、徐々に医療や介護サービスへのニーズが高まってきます。

団塊の世代が75歳以上になる2025年以降は、こうした後期高齢者の急増が見込まれています。そのため、従来の「65歳以上」を一括りにした高齢者施策では対応が難しくなるかもしれません。

むしろ、65歳から74歳までの人を高齢者とするのではなく、社会の支え手として積極的に活躍してもらう一方で、75歳以上の人には、医療・介護の充実や、自分らしく暮らし続けられる環境整備が求められます。

このように、高齢者の年齢層に応じて、異なるアプローチを取ることが重要だと考えられます。単に「高齢者が増える」という見方ではなく、細分化することにより、効果的な高齢社会対策につながるのではないでしょうか。

高齢社会白書のデータを手がかりに、こうした新しい視点から、高齢化について考えてみることが大切だと思います。

 

「高齢化の社会保障給付費に対する影響」は全世代に関わる

 

高齢社会白書では、高齢化が社会保障給付費に与える影響について、図(1-1-14)の「社会保障給付費の推移」を用いて説明しています。

このグラフには、社会保障給付費全体、そのうちの高齢者関係給付費、そして社会保障給付費の対国民所得比の3つの指標が示されています。

高齢者関係給付費とは、年金保険給付費、高齢者医療給付費、老人福祉サービス給付費、高年齢雇用継続給付費を合計したもので、いずれも厚生労働省が所管しています。

令和3年度の高齢者関係給付費は83兆4,322億円で、社会保障給付費全体の60.1%を占めています。高齢化の進展に伴い、社会保障給付費は増加の一途をたどっています。

令和6年度の社会保障給付費は137.8兆円(予算ベース)となっています。今後も高齢化が進むことで、さらに増大すると見込まれています。

 

高齢者関係給付費の内訳と算出

ここで注目すべきは、高齢者関係給付費が現役世代の保険料や税金でも賄われているという点です。実際には、全世代からの税金や保険料なども含めて給付費が賄われています。

また、高齢社会白書では社会保障給付費について簡潔に触れているだけですが、実際には高齢社会対策の根幹をなす重要な問題です。令和6年度の一般会計予算112兆円のうち、社会保障費は37兆円と3分の1以上を占めています。

社会保障給付費の動向を正しく理解するには、高齢社会白書だけでなく、厚生労働省や財務省の資料なども合わせて読み解く必要があります。

高齢化に伴う社会保障費の増大は避けられない課題ですが、それでも希望は持てます。世代間の公平性に配慮しながら、今を生きる私たちが、子や孫の世代のことを考えて行動することが大切です。

 

今を生きる私たちが、未来世代への責任を自覚し、持続可能な社会保障制度を作っていく。そんな覚悟を持って、高齢化という課題に立ち向かっていきましょう。

※社会保障費に関して参考サイトを掲載しましたので、高齢社会白書と併せてごらんください