令和6年版高齢社会白書 ~ 「高齢期の暮らしの動向」で何がわかるのか

 

 

第1節「高齢化の状況」では、高齢化問題の原因となる歪な人口バランスと主な問題点についてお話ししました。第2節「高齢期の暮らしの動向」では、高齢者の立場からどのような影響があるかをお話しします。

この節では、就業・所得、健康・福祉、学習・社会参加、生活環境、研究開発等について掲載されています。前節で説明した主なグラフの見方と高齢者の分類について示します

グラフの見方
・棒グラフ:主に数量の比較
・折れ線グラフ:主に変化率の推移
・積み上げグラフ:主に全体に対する割合

高齢者の分類
・令和5年版まで :65歳以降を高齢者として分類
・令和6年度版では:65‐74歳、75‐84歳、85歳以降と細分化
※すべての資料が細分化されていないので、過年度との比較に注意が必要

 

高齢者の就業状況が見えてきた、その実態は?

 

まず、労働人口の推移は大きな変化は見られませんが、65歳以上についての詳細な掲載が多くなっています。就業率の推移では就業数が示され、団塊の世代が75歳以上になったことによる影響が表れています。

特に「主な産業別65歳以上の就業者数及び割合」では、卸売業・小売業、医療・福祉、サービス業(他に分類されないもの)、農業・林業に、65歳以上の就業数が増えていることがわかります。

卸売業・小売業には販売のおける接客、医療・福祉には介護全般の業務、サービス業(他に分類されないもの)には清掃や保安業務が含まれていることから、実態に即していることがわかります。

 

就業・所得に関する課題

高齢者の就業者数が増加することは望ましいことですが、増加している産業は労働集約型の業種が多く、高齢者が補助的な業務に就いていることが読み取れます。

男性は65歳以上から、女性は年齢にかかわらず非正規職員が多いのは、過去の制度が大きく影響していると考えられます。また、健康管理を含めた労働環境の見直しも必要です。

高齢社会の問題点の1つに中小企業の後継者問題があります。経営者層の高齢化についても取り上げるべきではないでしょうか。

 

健康寿命と心身脳ともに健康であることの違い

 

高齢と寿命は併せて考える必要があります。日常の生活に支障のない「健康寿命」、0歳児の平均余命である「平均寿命」、同一年に出生した人口の半数が生存する「寿命中位数」、同年齢で死亡者数が最も多い死亡最頻値があります。

健康はQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指すためには必要ですが、寿命とQOLの向上は直接的な関係はありません。心身脳の健康、特に近年では認知症MCI(軽度認知障害)の予防が重視されています。

QOLを維持するために、専門施設への入所が選択肢の一つとしてあげられます。介護医療院制度は始まったばかりで徐々に増加しています。有料老人ホームはビジネスとして注目をされる一方で、QOLとしての効果が問われ始めています。

 

「健康・福祉」に関する課題

すべての人にとってQOLは重要です。高齢者のQOLは加齢による老化現象への対応によって分かれ、老化現象に抗うか、受け入れるかは本人の価値観次第となります。

「健康と福祉」は自分の努力と他者からの無料と有料の支援で成り立ちます。ビジネスとして捉えたときには、本質的な健康と福祉、そして加齢への考え方が問われています。

 

「学習・社会参加」が自発的QOLの向上に役立つ

 

「65歳以上の者の社会活動への参加状況と生きがいの感じ方」という項が新たに設けられていますが、社会活動に参加しなかった人が「生きがいを感じなかった」という回答が多くなっています。

 

「学習・社会参加」に関する課題

この項は1ページ程度の内容ですが、本来であれば「学習・社会参加」は自発的にQOLを向上させる最も重要な項目です。より深い調査と報告を望みたいです。

 

住居、地域、人間関係は、時代とともに変わる

 

生活環境の基本は住居形態と居住地域で大きく変わります。65歳以上の持ち家率が80%前後で推移していることを考えると、居住地域も固定化していることがわかります。

都市部と地方部でも住宅形態は異なり、持ち家比率は地方部のほうが高まります。したがって、地方での高齢化率は持ち家の保有率が高いことが要因の一つになると考えられます。

地方部では、商店、医療、交通などは都市部に比べて発達していないので、生活圏も広くなり自家用車の保有率も高まります。全国一律に生活環境を考えることはできません。

住居は経年劣化が起きる一方で、居住地域は発展する地域もあれば、衰退する地域もあります。時代とともに従って居住地域の環境が変わると共に人間関係も変わっていきます。

人口密度が高い地域と低い地域では人間関係の様相も変わり、対面での直接的な人間関係から、非対面での人間関係が増えていきます。非対面の人間関係はメリットとデメリットがあることを忘れてはなりません。

 

誰もが安全で安心できる社会望みますが、現実的には犯罪や事故、災害が生じることは避けられません。ただし、予防や防止は可能ですが、そのためには前項の「学習・社会参加」が有効になります。

高齢者が安全で安心できる社会は、誰でも安全で安心できる社会です。このようなユニバーサルな社会を目指すためには、高齢者だけでなく、全世代について考えることが肝要です。

 

「生活環境」に関する課題

生活環境は全世代共通で考えなければなりません。そのためには、高齢社会だからという偏った考え方は避けるべきでしょう。すべての対処から高齢者特有の対策を考えるべきです。

生活環境の課題は、過去に起因する場合、現在すぐに対処しなければならない場合、未来に向けて対策を練る場合の3つに分けられ、時間的な考えも必要になります。

一人暮らし、孤独、孤立」に関する問題は、孤立死を中心に考えられがちですが、孤立死に至る前の生活の質を評価することが重要です。

 

※住居については、第3節「〈特集〉高齢者の住宅と生活環境をめぐる動向について」で詳しく報告されています。

 

高齢者向けの研究開発よりもUI/UXが必要

 

白書に掲載されている「研究開発等」は医療と介護を中心に掲載されていますが、高齢者に必要なのはUI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス)ではないでしょうか。

例えば、ガラケーのボタンとスマホのタッチの違い、音声通話とテキストチャットなどを、高齢者がいかに使いやすくするかという研究も必要です。

 

「研究開発等」に関する課題

どんなに良い健康に関するデータの管理を行っても、使えなければ本来の目的は達成できません。高齢者の思考や行動に寄り添った研究開発を期待します。