令和6年版高齢社会白書 ~ 高齢者の、高齢者による、高齢者のための「高齢社会対策」

 

「高齢社会白書(以下、白書)」は、政府が国民に対して行っている高齢社会対策の報告書です。概要版と全体版、HTML版とPDF版があります。

要点だけなら概要版を読むだけで十分です。特に冒頭の「高齢化の推移と将来推計」のグラフは、毎年、読み解くべきだと考えています。

PDF版はWebにいち早く掲載されるのですが、小さい画面では読みずらいのでHTML版が掲載されるまで待つしかありません。

それでも高齢社会の当事者である高齢者とプレ高齢者の方々には、頑張って概要版だけでも読んでいただきたいのです。

白書(全体版)は、第1章 高齢化の状況、第2章 令和5年度高齢社会対策の実施の状況、第3章 令和6年度高齢社会対策の3部作になっています。

このうち第1章は直近のデータを反映していますが、第2章と第3章は前年の白書の焼き直しで、必要な部分しか変更されていません。

今回の記事は、第2章と第3章を読み解いた後に作成しました。

この記事の最後に第2章と第3章の要約を掲載していますので、HTML版が出るまで待てない方はご覧ください。

(ちなみに要約はAIの力を借りて作成しました)

 

高齢社会対策はこうして始まった

 

平成7年(1995)に「高齢社会対策基本法」が交付施行され、この法律に基づき内閣総理大臣を会長とする「高齢者対策会議」の設置が行なわれ、「高齢社会対策大綱(以下、大綱)」を策定することになっています。

平成8年(1996)に最初の大綱が策定され、その後は平成13年(2001)、平成24年(2012)、平成30年(2018)と4度に渡って、経済社会情勢の変化を踏まえた見直しが行われました。

そして令和6年(2024)夏頃を目途に、新たな大綱の案の作成を行うこと等が決定されています。

 

理想的な高齢社会から現実的な高齢社会へ

このような約30年の歴史を持つ高齢社会対策ですが、2025年に65歳を迎え高齢者となる人は、高齢社会対策基本法ができた1995年はまだ35歳だったわけで、当時は現実味があまりなかったことでしょう。

1995年当時はバブル景気が終了した後で、大量解雇や多くの非正規雇用が生まれた時代です。それでも景気は再び戻ると信じながら、高齢社会対策も理想的な環境が得られると考えられていたように思います。

ところが、景気の低迷と2008年をピークに人口の減少が始まり、ボリュームゾーンである団塊の世代が2015年に65歳になった頃から、高齢社会が本格的に議論されるようになりました。

そして2025年には団塊の世代が後期高齢者になるのを機に、令和6年度から65歳以上の高齢者を、高齢社会白書の冒頭の「高齢化の推移と将来推計」では、65歳、75歳、85歳、95歳以上と細分化されて表記されるようになりました。

2025年度から本格的な高齢社会が始まり、高齢社会対策も本格的になると考えられます。ここで重要なのは理想的な高齢社会対策ではなく、現実的な高齢社会対策を行わなければならないということです。

 

「高齢社会対策基本法」に示された3つの基本的な考え方

 

「高齢社会対策基本法」には3つの基本的な考え方が示されています。

1.年齢による画一化を見直し、エイジレス社会を目指す
2.地域における生活基盤を整備し、地域コミュニティを作る
3.技術革新の成果が可能にする新しい高齢社会対策を志向する

「エイジレス社会」とは、年齢で区別することなく、全ての年代の人々が意欲や能力に応じて活躍できる社会のことです。この考え方の背景には、高齢者の労働市場への参加を目的としています。

高齢期に暮らせる地域コミュニティの必要性は、高齢者の孤立防止、自助・互助・公助による安全で安心できる社会づくりを目的としています。

技術革新によって、高齢期による身体及び認知能力の衰えを補うことが期待されています。

 

高齢者のための高齢社会対策

エイジレス社会では、現役世代と今までは引退していた高齢者も同じ労働市場で働くことを意味しているように思われがちですが、「意欲や能力に応じて」働くことを意味しています。

高齢者の経験と知識が仕事に役立つかどうかは個人差があります。過去の経験と知識が現在から未来に向けて役立つとは限りません。高齢者自身が経験や知識のスキルアップが必要になります。

地域コミュニティの必要性は都市部と高齢化が進んだ地方部とでは大きく異なります。都市部では多世代間のコミュニティ作りになりますが、地方部では高齢者中心のコミュニティ作りにならざるをえません。

高齢者の安心・安全とは、事故や犯罪に巻き込まれないように、また災害時の避難や協力体制だけではなく、孤立防止が最も重要な課題となります。高齢者のコミュニケーションスキルが重要になります。

高齢者向けの技術革新は、高齢者が意識せずとも使用、利用できるような仕組みでなければ浸透しないでしょう。新しいもの、新しいことに抵抗がある高齢者にとっては逆効果になりかねません。

 

分野別、推進体制、高齢社会対策関係予算

 

「基本的な考え方」をもとに分野別として、就業・所得、健康・福祉、学習・社会参加、生活環境、研究開発・国際社会への貢献等、全ての世代の活躍推進が掲げられています。

「高齢社会対策会議」は重要事項を審議する場であり、実際の施策は、内閣府、厚生労働省、地方公共団体を含む関係行政機関となっています。また、数値管理によりエビデンスに基づくことも示されています。

その他、今後の高齢者対策のための検討会の開催、高齢社会対策関係予算についても示され、令和5年度が23兆6千億円、令和6年度が24兆2千億円になっています。

 

高齢社会は社会構造の一部である

就業・所得、健康・福祉、生活環境の3分野は、全国民と共通する分野です。したがって、高齢者を優遇する措置については、常に全体とのバランスと国民に対する説明が必要になります。

特に健康・福祉の分野が充実してこそ、就業・所得と生活環境の分野が成り立ちます。高齢者に対して、この分野に関する学習・社会参加、研究開発についての理解を求める必要があります。

高齢者は労働時間と労働期間の制限があるため、現状の労働力不足を補うための就労機会が多くなります。高齢者としてではなく、人材の有効な活用という視点での就労及び雇用の姿勢が必要です。

高齢者の一人暮らし、健康不安、認知機能の低下、老々介護などの生活環境に不安には、福祉機関での対応が中心となっています。しかしながら高齢者自身が自分の環境を理解していない場合もありますので注意が必要です。

 

高齢社会対策の本質的な課題を探る

 

高齢社会は人口バランスの名称であり、高齢社会から発生する問題の総称ではありません。人口バランスから社会を考えるのであれば、「人口白書」のような社会全体を把握する分析が必要です。

未来の人口は「現在の人口+出生数-死亡数」で計算できます。特定の地域の人口は流入数と流出数を加えて「現在の人口+出生数-死亡数+流入数-流出数」となります。

それぞれの人数は地方公共団体が窓口となり、全体としての取りまとめは厚生労働省が行っています。高齢社会の問題は、全国レベルと地域レベルで異なる側面があります。

高齢社会の問題を個人単位で考えると、高齢者自身の問題となり、多種多様な問題に取り組まなければなりません。そして高齢者自身が解決への努力を行わなければなりません。

「高齢者の、高齢者による、高齢者のための高齢社会対策」という視点をもって考えなければならないのはないでしょうか。

いずれは誰もが生きていれば必ず高齢者になるのですから。

 

 


令和6年版高齢社会白書 第2章と第3章の要約 (筆者とAIで作成)


 

第2章 令和5年度高齢社会対策の実施の状況

第1節 高齢社会対策の基本的枠組み

  • 高齢社会対策の基本的枠組みは、「高齢社会対策基本法」に基づいています。同法は高齢社会対策を総合的に推進し、経済社会の健全な発展と国民生活の安定向上を図ることを目的としています。
  • 高齢社会対策会議は、内閣総理大臣を会長とし、高齢社会対策の大綱の案の作成等を行っています。
  • 平成30年に閣議決定された「高齢社会対策大綱」では、年齢による画一化の見直し、地域における生活基盤の整備、技術革新の成果の活用という3つの基本的考え方を示しています。
  • また就業・所得、健康・福祉、学習・社会参加、生活環境、研究開発・国際社会への貢献等、全ての世代の活躍推進の6つの分野で基本的施策を定めています。
  • 高齢社会対策を総合的に推進するため、高齢社会対策会議において大綱のフォローアップ等を行うこととしています。また、令和6年夏頃を目途に新たな大綱の案を作成することを決定し、有識者による検討会を開催しています。
  • 一般会計予算における高齢社会対策関係予算は、令和5年度で23兆6,455億円となっています。

第2節 分野別の施策の実施の状況

1 就業・所得

  • 高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業確保が事業主の努力義務となりました。
  • 多様な働き方を可能にするため、短時間労働者の待遇改善やテレワークの普及、副業・兼業の促進等の環境整備を図りました。
  • 高齢者の再就職支援として、ハローワークでの支援や助成金制度の活用を行いました。
  • 公的年金については、被用者保険の適用拡大等の検討を開始しました。
  • iDeCo等の私的年金制度の普及、NISAの抜本的拡充等により、高齢期に向けた資産形成を支援しました。

2 健康・福祉

  • 健康寿命延伸に向け、「健康日本21(第三次)」を推進しています。
  • 介護予防、認知症施策、地域包括ケアシステムの推進等に取り組みました。
  • 介護人材確保のため、処遇改善や参入促進、労働環境改善等の施策を実施しました。
  • 医療・介護の総合的な確保を推進しました。
  • 認知症施策推進大綱に基づき普及啓発、予防、医療・ケア等の施策を推進しました。
  • 認知症基本法が成立し、共生社会の実現に向けた取組を開始しました。
  • 新型コロナ対策として介護サービス継続支援等を実施しました。

3 学習・社会参加

  • 高齢社会に対応するため、学校教育における多様な学習機会の提供、社会人の学び直し支援等を実施しました。
  • 高齢者の学習活動を促進するとともに、若い世代への高齢社会に関する教育を推進しました。
  • 高齢者の社会参加を促進するため、ボランティア活動等への参画支援を図りました。

4 生活環境

  • 高齢者の居住の安定確保に向け、サービス付き高齢者向け住宅等の整備、住宅のバリアフリー化、公共賃貸住宅での高齢者への配慮等を推進しました。
  • 「共生社会ホストタウン」を中心にユニバーサルデザインのまちづくりを進めるとともに、バリアフリー法に基づく移動等円滑化を推進しました。
  • 農山漁村の再生のため、農福連携の取組支援や漁港等への軽労化施設の整備等を実施しました。

5 研究開発・国際社会への貢献等

  • 科学技術の研究開発により、高齢者に特有の疾病の調査研究、福祉用具等の開発、情報通信の活用等を推進しました。
  • 我が国の知見を活用し、アジアの高齢化社会に必要なヘルスケアの実現に向けた取組を進めました。
  • 日中韓三国で健康的な高齢化の推進に関する議論を行う等、国際社会での課題の共有及び連携強化を図りました。

6 全ての世代の活躍推進

  • 一億総活躍社会の実現や人づくり革命の推進、こども大綱やこども未来戦略に基づく取組を進めました。
  • 第5次男女共同参画基本計画に基づき、女性の職業生活における活躍推進や男女共同参画の取組を強力に推進しました。
  • 農山漁村における女性の活躍推進のため、方針決定への参画促進や女性農業経営者の育成等に取り組みました。

 

第3章 令和6年度高齢社会対策

1 就業・所得

  • 令和6年度は、70歳までの就業確保措置の努力義務化など改正高年齢者雇用安定法の着実な施行を図ります。
  • 多様な形態による就業機会の確保に向け、地域の高齢者の就労支援や短時間労働者の処遇改善等に取り組みます。
  • 高齢者の再就職支援として、ハローワークでの支援強化、トライアル雇用助成金の活用等を行います。
  • 高年齢者就業確保措置に関する相談・援助、65歳超雇用推進助成金の活用等により、企業の取組を支援します。
  • シルバー人材センターについては、介護分野の人材確保支援等、高齢者の活躍を一層促進します。
  • 令和5年度と比べ、70歳までの就業確保措置の努力義務化など、高齢者雇用の環境整備が一層進んでいます。

2 健康・福祉

  • 令和6年度は、健康日本21(第三次)を推進し、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」を目指します。
  • 介護予防、認知症施策、地域包括ケアシステムの推進等に取り組みます。
  • 介護人材確保のため、処遇改善や参入促進、労働環境改善等の施策を実施します。医療・介護の総合的な確保を推進します。
  • 認知症施策推進大綱に基づき普及啓発、予防、医療・ケア等の施策を推進します。
  • 認知症基本法に基づく認知症施策推進関係者会議の議論を踏まえ、認知症施策推進基本計画の策定を進めます。
  • 令和5年度と比べ、健康日本21(第三次)の推進や、認知症基本法の成立を受けた新たな計画策定の動きが見られます。

3 学習・社会参加

  • 学習活動の促進として、学校教育における多様な学習機会の提供、社会人の学び直し支援等を引き続き実施します。
  • 高齢者の学習活動を促進するとともに、若い世代への高齢社会に関する教育を推進します。
  • 高齢者の社会参加を促進するため、ボランティア活動等への参画支援を図ります。

4 生活環境

  • 高齢者の居住の安定確保に向け、サービス付き高齢者向け住宅等の整備、住宅のバリアフリー化、公共賃貸住宅での高齢者への配慮等を引き続き推進します。
  • 新たな取組として、IoT技術を活用した非接触型サービス提供の支援や、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」の提出による、住宅確保要配慮者への賃貸住
  • 宅供給の促進と居住支援体制の強化を図ります。
  • 「共生社会ホストタウン」を中心にユニバーサルデザインのまちづくりを進めるとともに、バリアフリー法に基づく移動等円滑化を推進します。
  • 農山漁村の再生のため、農福連携の取組支援や漁港等への軽労化施設の整備等を実施します。

5 研究開発・国際社会への貢献等

  • 科学技術の研究開発により、高齢者に特有の疾病の調査研究、福祉用具等の開発、情報通信の活用等を引き続き推進します。
  • 我が国の知見を活用し、アジアの高齢化社会に必要なヘルスケアの実現に向けた取組を進めます。
  • 令和5年のG7首脳宣言を受け、「UHCナレッジハブ」の我が国への設置に向けた調整を新たに進めます。
  • 日中韓三国で健康的な高齢化の推進に関する議論を行う等、国際社会での課題の共有及び連携強化を図ります。

6 全ての世代の活躍推進

  • 一億総活躍社会の実現や人づくり革命の推進、こども大綱やこども未来戦略に基づく取組を進めます。
  • 第5次男女共同参画基本計画に基づき、女性の職業生活における活躍推進や男女共同参画の取組を強力に推進します。
  • 農山漁村における女性の活躍推進のため、方針決定への参画促進や女性農業経営者の育成等に取り組みます。

以上