物価高の中で実質賃金の向上を図る~生活水準を上げるためには付加価値生産性が鍵

実質賃金の向上に向けた取り組み

 

2024年4月から変わることがマスコミを中心にメディアを賑わしている。特に物価の上昇、端的に言うと値上がりが暮らしに影響する、それも悪影響を及ぼすというのだ。

確かに家計という意味での暮らしは、収入と支出で成り立っており、値上げは支出が増えることになる。支出が増えた分だけ収入も増えれば、実質的には収入が増えたことにはならない。

では支出より収入が増えたとき、余剰となったお金はどうするだろうか?

使うか、使わないかの二択になる。使う場合は、いつもより美味しいものを食べたり、良い商品を買ったりなど、生活のレベルを上げることに使うだろう。

食べたり、買ったりする消費のほかに、投資や寄付という方法もある。株式や債券の他にも多くの金融商品があり、最近ではNISAやiDeCoで投資も身近になってきた。

ところが、物価高になると余ったお金は、商品やサービスの値上げ分を補うために使うと、実質的には収入が増えたことにならない。

収入が増えた率よりも値上げの率が高ければ、実質的には収入が減ったの同じことである。これが名目賃金と実質賃金の違いで、ここ数年間は実質賃金が減少している。

ここまではマスコミを中心としたメディアが取り上げているので、サラリーマン世帯では身近な話題としてよく理解されているだろう。

 

本当に賃金が上がったと喜んでいいのか

 

実質賃金を上げるためには2つの方法がある。実質賃金の算出は、名目賃金 ÷ 物価指数で求めることができる。

例えば、名目賃金400万円が5%アップになると420万円になる。

このとき物価指数が1.05(5%アップ)の場合、420万円 ÷ 1.05 = 400万円で、名目賃金が上がったとしても、実質賃金は変わらないので生活のレベルも変わらない。

物価指数が1.06になれば、420万円 ÷ 1.06 ≒ 396万円で、名目賃金が上がっても実質賃金は4万円分減ったことになる。つまり商品・サービスの値上がりが暮らしに悪影響を与える。

もし物価指数が1.04で値下がり傾向になると、実質賃金は約404万円になるが、名目賃金で20万円上がったにもかかわらず、実質賃金は4万円上がったにすぎない。

賃金が上がれば所得税も社会保険料も上がるため、実際の手取り金額はそれほど増えないかもしれない。賃金が上がったと喜んでばかりはいられないというのが現実だ。

 

実質賃金を上げるためには

 

実質賃金を上げるためには、名目賃金を物価指数以上に上げるか、物価指数を名目賃金以下にする方法が考えられる。

商品価格にもサービス価格にも人件費が含まれている。業種によっても価格に反省される要素が異なるが、単純化して考えると次のようになる。

製造業の価格 = 原材料費 + 加工費 + 人件費 + 利益
小売業の価格 = 仕入価格 + 流通費 + 人件費 + 利益
サービス業の価格 = 人件費 + 利益

いずれも「人件費 + 利益」が共通しているが、人件費とは賃金だけでなく社会保険料や福利厚生、諸手当なども含まれる。本質的には人が働く環境に関わる費用は広義の人件費とも言える。

人件費以外の費用は、外部の影響によって変わるので価格に反映せざるを得ない。広義の人件費は内部で調整可能なので、価格に反映するには付加価値が重要になる。

外部の影響による価格が上がるのは物価の影響と言えても、内部的な人件費を上げるには付加価値を上げることが前提になる。つまり付加価値を上げることで実質賃金を上げることが可能になる。

 

物価指数はモノの価値、ではヒトの価値は

 

ヒトの価値がすべて賃金に反映されているわけではないが、名目賃金を上げることだけを考えると「賃金構造基本統計調査」という資料が参考になる。

この資料では、賃金の推移、性別、学歴別、企業規模別、産業別、都道府県別などに分類されている。名目賃金と言っても、業態や職種によってもヒトによる付加価値は異なる。付加価値を上げるために生産性やブラック労働が議論されていたのが懐かしい。

新型コロナ前に指摘されていた長時間労働、新型コロナ禍で発覚したアナログ労働、そして新型コロナ後にはキャッシュレス、デジタル化が当たり前のように議論されるようになったが、付加価値の議論はあまり耳にしない。

世界的に鑑みれば、経済対策は二周遅れの感があるのは否めない。なんとか遅れを取り戻そうとトップランナーの走り方を真似てもそう簡単に追いつけない。

ここでいくつかの日本特有の問題を考えてほしい。

1)超高齢社会になり労働人口が減少している
2)高齢者の労働参加率も高くなっている
3)少子化を改善するためには若い女性の労働参加率には限界がある
4)国民負担率も、赤字国債を含めた潜在国民負担率も高い
5)日本国内の経済格差は移民が多い国の経済格差とは異なる
6)年代によって教育資金、住宅購入資金、投資資金などが異なる
7)高齢者の貯蓄が上記の資金にまわることは考えずらい
8)名目賃金に関与する人口は60%に満たない
9)物的生産性ではなく、付加価値生産性を上げなければならない

このような問題点は今までも指摘されてきた。その対処の方法として掲げられてきたのが、「一億総活躍社会」である。

 

底上げよりも特化人材で付加価値を上げる

 

前述の問題以外にも多々あるかもしれない。問題をひとつひとつ対応するのではなく、国民全体の底上げを意識したのが「一億総活躍社会」である。底上げは成果を上げているのだろうか。

私はなにかを改めようとするときには常に2つのことを考えるようにしている。

1つは「二割の適所適材、八割の適材適所」である。組織だって行う場合は理想の組織を描き、重要なポジションを決め、二割の人材を配置する。残りの八割の人材は能力によって適所に配置するという方法である。

重要なポジションが1人に集中することなく、また、個人の能力よりも組織の運営を優先する考え方である。個人で仕事をしても同じであり、重要なことは二つに絞り、同時には行わないようにしている。

もう1つは「よく考え、良いものを、上手に売る」ということだ。かつての「良いものを作れば売れる」という考えを完全には否定していない。良いものを提供することには変わりない。

ただし、「良いもの」と「作ること、売ること」はまったく別次元のことだと考えている。「よく考え」は買う側の立場になって考えるということであり、「良いもの」は作れなければ他から調達すればよいと思っている。重要なのは「良いもの」を見極める力である。

「上手に売る」は付加価値をアピールして、ものの良さを分かる人に、タイミングよく売るということである。名目賃金を上げるには、「よく考え、良いものを」も重要であるが、最も重要なのは「上手に売る」であると考えている。

 

名目賃金を上げるだけでは理想的な暮らしにはならない

 

最後に、4月になって物価の上昇や値上げが多く、実質賃金がマイナスになっていると嘆くのではなく、実質賃金よりも本質的な名目賃金を上げる方法を考えてはどうかという考えを書いてみた。

仮に名目賃金が物価上昇よりも上がり、実質賃金が上がったとしても、それで理想的な暮らしになるとは言えない。もうすぐ日本人の3分の1が高齢者になり、その多くは賃金労働者ではなくなるだろう。

そのような近未来を想えば、物価上昇よりも、実質賃金よりも、付加価値生産性を上げることを考えるべきではないだろうか。

二割の高齢者が付加価値生産性を考え、また実践することができたら、高齢社会は必ずしも捨てたものではなく、悲観的な予想ばかりの高齢社会を覆すことができるのではないだろうか。

今月4月は、喫緊の話題について、このブログ(SimpleWize)がテーマにしている「人生後半戦は シンプルに考え かしこく生きる」にそって記事を書き綴ってみたいと思う。

 

 

季節な変わり目だろうか、例年になく体調が悪い。
新年度になっても、良いことは起こりそうもない。
他力本願では何も変わらないのだ、とふと思って書いた記事でした。