人生後半戦の健康管理 ~ 高齢化社会に向けた健康人口の増加を目指して

人生後半戦の健康管理 ~ 持病を抱えた経験から

 

前回は『人生後半戦』を意識するきっかけと、『健康・時間・お金』が人生の基本となった経緯をお話ししました。また、「お金」に対する考え方が日常と人生では異なることも述べました。

今回は『健康』についてお話ししようと思います。私は20代で持病を抱えました。最初は腎臓病で長期入院し、3年間自宅療養を続けましたが、その後も腎性高血圧が残り、やがて本態性高血圧と診断されました。

その後は高血圧を自覚しながら過ごしていましたが、50代初めには狭心症を発症し、数年後には心筋梗塞で一命を落としそうになりました。さらに、新型コロナ禍の最中には心房細動を起こし、なんとか生還しましたが、現在も通院加療中です。

このような経験をもとに、人生後半戦の「体と頭と心」の健康について私なりの考えをお話ししたいと思います。

 

「健康」が意味すること ~ 客観的データに基づく判断が不可欠

 

一般的に、「健康」の反対の概念は「病気」と考えられています。健康状態が悪ければ病気が原因と思われがちです。

しかし、健康状態の良し悪しは外見からはわかりません。健康管理機器が普及する以前は、元気な人を健康であると判断していました。

現在では、家庭用や医療機関の検査機器が発達し、「健康」は数値で表されます。検査値が一定範囲内にあれば、病気の可能性は低いと考えられています。

ここでいう一定の範囲とは、性別や年齢によって異なり、統計や研究データから常に更新されています。また、過去の病歴や生活習慣も考慮に入れる必要があります。

「健康」とは、外見だけで一時的に判断するのではなく、継続して健康であることが重要です。健康管理機器や定期検査で、客観的に判断することが不可欠となっています。

つまり、健康の定義は定まってはおらず、日常会話での健康は、本質的な健康には触れていないことに留意しながら使う必要があります。

 

加齢と病気の違い ~ 症状は似ていても原因を見極めることが大切

 

人生後半戦の健康を考える上で注意が必要なのは、加齢による症状と病気による症状が似ていたり同じだという点です。

例えば、50歳前後に多くの人が経験する「老眼」は、小さな文字が読みにくかったり、近くのものが見えにくくなります。

一方、50歳前後からよく発症する「白内障」は、水晶体が濁る病気です。加齢による「加齢性白内障」もあり、誰でも加齢が原因で罹患する可能性があると言えます。初期の段階ではどちらも見えにくいという点は同じなので注意が必要です。

私も50歳頃から小さな文字が読みづらくなり、眼鏡を作る前に眼科を受診しました。検査の結果は「遠視」で、水晶体は濁っていないと言われました。

このように、症状が同じでも原因が加齢なのか、他の要因があるのかで、対応や治療は異なります。素人判断で小さい文字が見えにくいのが老眼だと決めつけてはいけません。

ちなみに、その後、私は遠視用の眼鏡を作り、今でもパソコン作業や読書時に愛用していますし、白内障の症状は出ていません。

 

 

数値で記録することが健康管理の第一歩 ~ 大きな変化に注意

 

人生後半戦になると、体に違和感や不快感が生じてきます。同じ症状でも感じ方や対処法は人それぞれ違います。

我慢する人もいれば、すぐに医療機関で受診する人もいるでしょう。加齢によるものなら慌てるべきではないかもしれませんが、重大な病気の兆候の可能性もあります。

同じ症状が繰り返される場合は、記録を取ることが望ましいのです。新型コロナ禍で健康記録の重要性が再認識されたのは記憶に新しいと思います。

記録は症状だけでなく、数値化できるものがより傾向がわかりやすくなります。新型コロナ禍では体温と血中酸素濃度の測定が推奨されたようにです。

同様に、脈拍、血圧、呼吸数、体重、体脂肪率なども家庭用の健康管理(ヘルスケア)機器で計測可能です。

家庭用機器の数値は目安にすぎませんが、注意すべきは記録した数値の変化です。大きな変動や平均値の変化があれば、医療機関での検査が必要かもしれません。

症状があるにもかかわらず我慢することを促してはいるのではありません。健康管理は記録することが重要であり、医療機関での問診で有効に活用することもできるからです。

 

健康管理の未来 ~ 機器とネットワークで遠隔連携が現実に

 

健康管理のデータは、手書きやエクセル入力のほか、測定機器への直接保存も可能になっています。

家庭用の健康管理機器には、血圧計、体組成計、酸素濃度計、体温計など、様々な専用機器があるほか、スマートバンド、スマートウォッチなどのウェアラブル端末もあります。

機器の選択は使用者次第ですが、大切なのはデータの記録そのものです。持病がある場合は、緊急時の対応も考えてスマートウォッチが適しているかもしれません。少なくともスマートホンの緊急(SOS)の使い方は覚えておくべきです。

今後は、通院ではなく通信ネットワークを介した医療連携が主流になると考えられています。実際、スマートウォッチ外来が大都市を中心に開設されつつあります。

デバイスのデータを医療側と共有することで、問診などよりスムーズな診療が期待できます。さらに進めば、ネットワークのみで基本的な診察も可能になるかもしれません。

医療分野だけでなく介護分野でも、在宅におけるデバイスの活用と健康状態の遠隔モニタリングが今以上に普及するかもしれません。

ただし、プライバシーやセキュリティの面を考慮すると、対面での診察や介護は不可欠であり、患者にも、利用者側にも対面と健康管理機器のバランスへの理解が求められます。

AIやロボット技術の進化により、健康管理の手法は大きく変わっているので、今後に期待したい。

 

健康管理は”体”だけでなく”頭と心”の健康も重要 ~ 高齢社会は続く

 

健康管理は「体」だけではなく、「頭と心」の健康管理もあります。「頭」とは脳の健康管理、すなわち、認知機能を意味し、加齢による記憶力や計算力などの脳力を指しています。

2018年の高齢社会白書では、2025年に高齢者の5人に1人が認知症と予測されています。

「心」の健康とは、精神的な健康と心理的な健康を指し、うつ、不安、ストレスなど、程度に差はあっても高齢になると誰にでも見られる症状です。軽症なら自分で対処可能ですが、重症化すれば治療を要します。

国立社会保障・人口問題研究所によれば、50歳以降の死因は、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が上位3位を占めています。

一方、49歳以下では自殺、新生物、不慮の事故が上位3位に入っています。ただし、総人口では50歳から64歳以下の自殺も上位5位には入っています。

これらの事実から、「体」の健康と同様に、「頭と心」の健康、つまり認知機能と精神面の健康も重視すべきことがうかがえます。

人口減少、超高齢社会、少子化が、労働力の減少と日本の経済、日本の未来に影響を及ぼしているとの指摘もありますが、人口数のみに着目していても本質的解決にはなりません。

超高齢社会において労働力を増強するためには、高齢者一人ひとりが自身の健康について、これまで以上に意識を向上させることが社会的に重要となってくるだろうでしょう。

年齢に関係なく健康人口の増加が理想ですが、人生後半戦を担う高齢者が健康社会の変革を行うのに適しています。なぜなら、日本の超高齢社会は今後も続き、世界の高齢化も進む中で、高齢者の労働参加が今以上に求められると考えられるからです。