「シンプルに考える」ために人生後半でトレードオフしなければならないこと

2023年11月世代別人口2023年11月人口推計(下欄参照)より筆者が作成

 

人生後半と人生後半戦の違いについては以前の記事でもお話ししました。人生後半とは人生100年時代においては50歳以降の人生を指します。これは100年の中間点である50歳を起点にした単純な区分です。
人生を80年と考えれば、人生後半は40歳が起点になります。人生後半の区分は、寿命によって変わるので何歳から人生後半になるかは人それぞれです。

 

人生後半の社会保障制度は、3世代のステージに分かれている

 

同じ人生後半でも年齢によって平均的な健康状態を考慮して社会保障制度が変わります。50歳を起点にした人生を3つの世代に分類すると以下のようになります。

  • 50歳から64歳まで  現役世代(年金を受給するまでの期間)
  • 65歳から74歳まで  前期高齢者世代(年金を受給後に、健康寿命に達するまで)
  • 75歳以降      後期高齢者世代(要介護または健康障害が著しくなるまで)

これらの分類は、年金制度、介護保険制度、後期高齢者医療制度の年齢区分と一致しています。年金制度には繰り下げ受給制度がありますが、実際に利用しているのは1~2%です。

前期高齢者医療制度は、実際には75歳以降の後期高齢者医療制度への移行期間となります。65歳以降も働く場合には、雇用条件によっては、現役世代と同じように社会保険を継続することもできます。

75歳以降は加齢による心身の衰えと健康状態の悪化による症状があります。同じ症状でも、加齢による場合はリハビリ、病気による場合は治療が必要になります。ただし、個人差は大きいため、加齢による衰えを自覚しつつ、病気の予防は怠らないようにしましょう。

 

社会環境の変化の中で、人生後半の社会制度は大丈夫か?

 

前述の3つの分類は、既存の制度や仕組みに沿った分類です。つまり、社会全体で共有する既定の分類です。過去の人口構造や経済の状況、国際関係などから導き出した制度と仕組みには合致していたかもしれません。

しかし、人口構造の大きな変化、経済の状況の変化、さらに国際情勢に伴う関係の変化を考えると、過去の既定路線では当てはまらないことが多くなってきました。

現在の人口構造は、高齢者人口の増加と少子化による若年人口の減少が顕著であり、さらに全体人口の減少も既に始まっています。その結果、現状維持では、高齢者の増加による社会の膠着化、労働力の減少は避けられません。

経済の状況も変わり、かつての高度経済成長後の加工貿易国から、現在では現地生産による海外投資国へと変貌しています。外需よりも海外投資の回収に経済の中心が移り、内需は停滞気味になっています。国家予算も社会保障予算が約3分の1を占め、そのうちの約7割が年金と医療の予算になっています。

国際関係は、世界の名だたる企業が多国籍企業からグローバル企業に変わり、日本でも外資による企業が目立っています。また、自由主義、民主主義、資本主義に対抗するように、権力の集中を目指す権威主義の国が多くなり、世界的な政情不安にまで発展しつつあります。

このように、社会の環境は大きく変化しています。このような環境の中で、人生後半を考えることは、極めて個人的なことになります。このような環境踏まえて、シンプルに考えるにはトレードオフが必要になります。

 

過去思考から未来思考へ、人生後半に必要な「ゼロ思考」とは

 

国立社会保障・人口問題研究所によれば、1945年の日本の人口は約7200万人(下欄参照)で、2023年の人口は1億2400万人(下欄参照)となり、1.72倍に増加しています。人口が増えれば増えるほど、過去の記憶を蓄積する人の割合が増えます。そのため、日本全体としての過去の記憶量が増えて過去思考が強まると考えられます。

過去思考が強まると、新しいことに挑戦する意欲が低下したり、固定観念にとらわれたりしやすくなります。そのため、社会の停滞や革新の遅れにつながる可能性が増大します。

これが現在の日本の現状です。現在の日本に大切なのは、過去の記憶をトレードオフに差し出して、未来への思考へ転換することです。1.72倍となった記憶のどれだけをトレードオフとして差し出すかは適切な量はわかりませんが、過去思考から未来思考への転換が重要なのです。

国としての未来志向はもちろん大切ですが、まずは個人的なことから思考の転換を計るべきでしょう。若年層なら教育制度に組み込むことが、労働力として現役世代なら自分が関わっているる事業のビジョンから逆算して現状を変えることが必要になります。

そして人生後半を迎えた人は、人生前半戦をどのように生きていきたいかを構想し、ゴールから逆算するようにします。さらに、考え方として「ゼロ思考」試みます。

「ゼロ思考」とは、実際にゼロにするのではなく、「もしなかったら」という考え方です。

例えば、もし年金制度がなかったら、もし介護保険がなかったら、もし健康保険がなかったら、もし貯金がなかったら、というように、あって当たり前のモノやコトがないとして考えます。社会制度だけではなく、もし自家用車がなかったら、もし持ち家がなかったら、といった身近なことでも考えられます。

この考え方は、既存のモノやコトを考えずに未来について考える1つの方法です。まずは試してみてはどうでしょうか。

 

人生後半を「ゼロ思考」でシンプルにし、充実した生き方へ

 

「ゼロ思考」は過去を否定することにつながると、鼻から考えようとしない人もいます。しかし、「ゼロ思考」は過去を否定するものではありません。むしろ、未来を肯定するための方法なのです。

「未来を肯定する」とは、こういう未来にしたいという現われであり、今の日本に欠けているものです。

「シンプルに考える」ときに対象を細かく分けて選択することになりますが、まず対象から考えなくてもよいモノやコトを省くと、より細かく分けやすくなり、選択もしやすくなります。

「シンプルに考える」とは、ありのままをシンプルに考えることではありません。むしろ、必要なものだけを残して、シンプルに考えることです。

人生後半になるまでに経験した多くのことは、単に1人分の経験にすぎません。社会全体では、人生後半を迎えた人の人数分の経験があるのですから、社会全体をシンプルに考えることはとても難しくなります。

まずは自分の人生後半をシンプルに考えるために「ゼロ思考」をしてみてはいかがでしょうか。未来を肯定し、シンプルな考え方をすることで、より充実した人生を送ることができると考えています。

 

 

これから若年層の減少が進めば、50歳以上の人口比率はさらに高まります。未来の新しい日本の担い手となる人口よりも過去の日本にこだわる人口が増えたのでは、日本の未来は縮小(シュリンク)していくことは避けられないでしょう。量的に縮小するのは避けられなくでも、質的に縮小することを避けるためには、新しい考え方を持つ日本人を増やすしかありません。